佐賀大学医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座

Department of Otolaryngology - Head & Neck Surgery ,
Saga University Faculty of Medicine

診療内容

頭頸部癌

頭頸部扁平上皮癌

 のど(咽頭・喉頭),口(口腔),はな(鼻副鼻腔)や首にある甲状腺,唾液腺など,首から上で眼と脳を除いた範囲にできる癌を頭頸部癌と総称します.このうち口腔・咽頭・喉頭・鼻副鼻腔(図1)

図1

(図1)

に生じる癌の多くが扁平上皮癌であり,頭頸部扁平上皮癌といいます.ここでは頭頸部扁平上皮癌に対し私たちが行っている治療を紹介します.甲状腺癌,唾液腺癌については甲状腺腫瘍,唾液腺腫瘍の項を参照してください.

 頭頸部扁平上皮癌はことばを話す・歌う,味わって食べる・飲みこむ,匂うなど,人が人らしく社会的に文化的に生きていくために重要な機能を担っている臓器に発生し,生活の質(quality of life; QOL)に直結します.従って私たちは頭頸部癌の治療において,根治とともに臓器・機能の保存と顔面,頸部の形態・整容の保存を目指しています.また,できるだけ低侵襲,短期間に治療を行うことも心がけています.

 癌の治療手段としては手術,放射線治療,薬物治療(抗癌剤,分子標的薬)が挙げられます.扁平上皮癌は放射線感受性が高いことから,頭頸部扁平上皮癌では手術,放射線,薬剤治療をいかに選択するか,またいかに組み合わせて集学的治療を行うかが重要となります.

 従来は放射線治療の根治率が早期癌で高く,進行癌で低いことから,早期癌を放射線治療で根治し臓器・機能保存を図り,進行癌は根治切除するというのが一般的な考えでした.しかし,放射線治療に抗癌剤や分子標的薬を併用する化学放射線療法により,進行癌でも臓器,特に喉頭を保存できる場合があることが分かってきました.さらには放射線治療効果がより高い重粒子線の治療センターが鳥栖市に開設されました.私たちは学内の放射線科や腫瘍内科,皮膚科などの診療科や九州国際重粒子線治療センター(サガハイマット)と連携し,進行癌でも臓器・機能の保存を目指しています. 

 一方で手術手技の発展により,早期癌では機能を保存する手術が確立されてきました.機能保存手術は短期間での治療が可能であり,低侵襲な治療です.また喫煙・飲酒により生じた頭頸部扁平上皮癌の患者さんでは,高率に他の頭頸部癌や食道癌を発生することがあります.その際,一度放射線治療を行ってしまうと2回目以降の放射線治療を行うことが難しくなるという問題があります.また,放射線治療は治療期間として2か月程度が必要です.従って私たちは,臓器・機能の保存が可能であれば,早期癌に対し積極的に機能保存手術を行っています.一方で,根治のためには臓器を摘出する大きな手術が必要な場合もあります.そうした場合にも再建手術や機能回復手術を行うことで,可能な限り機能の回復を目指しており,必要に応じて形成外科や消化器外科,胸部外科,口腔外科,脳神経外科等とのチーム医療により手術を行っています.

 治療法は根治できる治療法かどうか,臓器・機能が保存できるかどうか,治療の侵襲はどの程度か,治療を遂行する体力や環境があるかなど,様々な因子を基準に選択していくことになります.担当医の説明を充分にお聞きいただき,納得された上で治療法を選択してください.私たちは選択された最善の治療を提供いたします.


頭頸部扁平上皮癌の概要と治療

私たちが行っている治療やその選択,流れをお示しします.手術,化学放射線療法などの治療手技については,それぞれの項を参照してください.


1.喉頭癌
図2

(図2)


図3

(図3)


図4

(図4)

 喉頭(図2)はのど仏の内側で声帯があり,発声機能があります.

 また喉頭の部分で気道と消化管が分かれるため,飲みこんだものが気道に入らないようにする重要な機能があります.誤って気道に入ることを誤嚥と言います.

 喉頭癌は喫煙が大きな発癌リスク因子です.

 声帯に発生する声門癌(図3),声帯より上の部分にできる声門上癌(図4),声帯より下の部分にできる声門下癌に分けられます.声門癌が2/3程度と多く,声門上癌が1/3程度で,声門下癌はまれです.

 声門癌は早期から声嗄れがみられ,声帯の領域にはリンパ流が少ないため頸部リンパ節転移はまれであり,早期癌が多くをしめます.

 声門上癌は声帯よりも上の部分に発生するため,声嗄れや嚥下痛などの症状が現れにくく,この部はリンパ流が豊富なことから頸部リンパ節転移が高率みられ,進行癌が多くをしめます.

1)早期癌

 レーザー切除術(リンク)でも放射線治療でも高い根治率と声の保存が可能です.

 私たちは低侵襲な機能保存手術として短期間(最短2泊3日)での治療が可能なレーザー切除術を積極的に行っています.

2)進行癌

 声の保存を希望される場合は,まず化学放射線療法(リンク)を行って治療効果や経過をみることを推奨しています.

 化学放射線療法により腫瘍の残存や再発がみられた場合や,化学放射線療法を希望されない場合は手術を行います.

 手術は喉頭部分切除,亜全摘,全摘のいずれかになりますが,年齢や全身状態と術後の誤嚥のリスクを判断し選択していきます.

 喉頭全摘術では声を失いますが,代用音声を獲得することが可能で,気管食道シャント形成術も行っています.


2.下咽頭癌
図5

(図5)

 下咽頭は喉頭の後ろ(背側)で下方は食道につながります.

 下咽頭癌(図5)は喫煙とともに飲酒が大きな発癌リスク因子であり,食道に高率に重複癌がみられます.

 早期は症状が現れにくく,進行すると消化管症状として嚥下痛や嚥下困難が生じたり,喉頭に拡がれば声や気道の問題が生じます.また頸部リンパ節転移が高率にみられます.

 下咽頭癌の治療では声を残せるかどうかと,嚥下に障害がでないかどうかが大きな問題となります.

 早期癌は少ないのですが,可能な場合には口から直達鏡や内視鏡を用いて腫瘍を切除しており(経口的切除),発声や嚥下にはほぼ影響ありません.放射線治療も可能です.

 多くをしめる進行癌で声の保存を希望される場合には,まず化学放射線療法(リンク)を行って治療効果や経過をみることを推奨しています.

 化学放射線療法により腫瘍の残存や再発がみられた場合や,化学放射線療法を希望されない場合は手術を行います.手術は基本的には咽頭・喉頭・頸部食道摘出術を行い,空腸を移植して食道を再建します.喉頭全摘術と同様に声を失いますが,代用音声の獲得が可能です.腫瘍の進展範囲によっては喉頭を保存する下咽頭部分切除や,喉頭を摘出しますが再建を必要としない喉頭摘出・下咽頭部分切除も可能です.


3.中咽頭癌
図6

(図6)


図7

(図7)

 中咽頭(図6)は口腔の奥(背側)の部分で,口蓋扁桃や口蓋垂・軟口蓋,舌根部などが含まれます.

 口蓋扁桃にできる癌(図7)が最も多く,頸部リンパ節転移も高頻度にみられ,症状が現れにくいことから進行癌が多くをしめます.

 喫煙や飲酒が発癌リスク因子ですが,近年,喫煙・飲酒歴が無く,ヒト乳頭腫ウイルス(Human papilloma virus; HPV)感染により生じる中咽頭癌(特に口蓋扁桃癌)が増加してきています.HPV関連中咽頭癌は治療後の予後が良いことが分かってきており,治療開始前にHPV感染の有無を確認することを推奨しています(全国的な多施設共同研究としてHPV感染を調べることが可能です).

 多くをしめる進行癌の治療としては,化学放射線療法(リンク)を行い治療効果や経過をみることを推奨しています.化学放射線療法により腫瘍が残存または再発した場合や,化学放射線療法を希望されない場合は手術を行います.

 中咽頭癌の手術では軟口蓋の機能である鼻咽腔閉鎖機能を保持できるかどうかがポイントとなります.鼻咽腔閉鎖機能を障害しない程度の切除であれば形成術は必要ありませんが,障害する場合は鼻咽腔を狭小化するような形成術が必要となります.


4.上咽頭癌
図8

(図8)

 上咽頭は鼻腔の奥(背側)の部分で,耳とつながる耳管が開口しており,その奥は頭蓋底につながります.

 上咽頭癌(図8)は他の咽頭・喉頭癌と異なり喫煙・飲酒はリスク因子にならず,EBウイルスというウイルス感染が関与することが知られています.

 耳管閉塞のための中耳炎による症状がみられることもありますが,他の症状は現れにくく頸部リンパ節転移が高率にみられるため進行癌が多くをしめます.

 この領域は解剖学的に手術が困難であり選択肢として手術はあがりません.

 上咽頭癌は頭頸部扁平上皮癌の中でも特に放射線感受性が高いことから,主に化学放射線療法(リンク)を行います.


5.口腔癌(舌癌)

 舌や歯ぐき,上あごなどの口腔内にできる癌です.

 喫煙や飲酒がリスク因子ですが,そのほかに虫歯を放置しているなど不良,不衛生な歯の状態も発癌リスクになります.

 見えやすい部位であることや食べ物がしみるなどの症状が出ますので,比較的早い時期に発見される率が高い癌ですが,進行癌もしばしばみられます.

 口腔癌は咽頭・喉頭癌とは異なり,放射線を外からあてる外照射の効果が不安定であるため,まず手術を行うことが推奨されており,私たちもその方針をとっています.

 ここでは口腔癌で最も多い舌癌の治療を紹介します.

図9

(図9)

図10

(図10)

1)早期癌

 頸部リンパ節転移が無い早期癌(図9)では,口腔内から舌部分切除を行います.1,2週間の入院が必要です.

 術後はしばらく舌を動かしにくい状態が続きます.切除範囲によりますが,通常2,3ヶ月もすれば舌の動きに支障はなくなり,食べること,話すことにも支障は少なくなります.

 切除した癌組織を顕微鏡で調べ,必要あれば追加の治療を行います.

2)進行癌

 頸部リンパ節転移があったり,癌が舌の筋肉内に深く浸潤しているような進行癌(図10)では,舌の腫瘍と頸部リンパ節を一塊にして切除するpull through法により舌を切除します.多くの場合は半分以上の舌の切除となり,切除後は再建が必要です.術後の嚥下訓練が必要ですが,食べる・話すという機能をできるだけ回復するように再建します.早期癌と同様に切除した癌組織を顕微鏡で調べ,必要あれば追加の治療を行います.

6.鼻副鼻腔癌(上顎洞癌)

 鼻や鼻につながる副鼻腔にできる癌で,最も多いのは頬の奥にある上顎洞にできる癌(上顎洞癌)です.ここでは上顎洞癌の治療を紹介します.

図11

(図11)

 上顎洞癌(図11)は慢性副鼻腔炎(蓄膿症)が発癌リスク因子になりますが,慢性副鼻腔炎が減少してきているため,上顎洞癌の発生も減少してきています.

 癌が上顎洞内にとどまっている場合はほとんど症状が現れません.上顎洞を越えて周囲に拡がって初めて以下のような症状が出ますが,片側のみの症状となるのが特徴です.頸部リンパ節転移を生じることはまれですが,上顎洞で進行した状態の癌が多くをしめます.

  鼻腔側(内側):膿性の鼻汁,鼻出血,鼻閉

  口蓋側(下方):歯痛,歯が浮いた感じ

  眼窩側(上方):眼球の偏位,複視

  頬部側(前方):頬部の腫れ

 上顎洞癌の治療では上方の眼の機能と下方の口蓋の機能を保存できるかどうかがポイントになります.口蓋の切除後は歯科口腔外科による顎義歯の補綴により機能回復が可能です.私たちは主に眼の機能を保存できるかどうかにより,治療方針を決めています.

①眼窩内浸潤がない場合

 ほとんどの腫瘍を切除する手術をまず行います.その後,放射線治療を追加します.

②眼窩内浸潤がある場合

図12

(図12)

 眼の保存を希望される場合は,上顎洞を栄養する動脈に血管造影のカテーテルを入れて上顎洞癌に集中的に抗癌剤を注入(選択的抗癌剤動注)(図12)し,並行して放射線治療を行っています.治療途中で鼻内から内視鏡を用いて腫瘍の減量を行うこともあります.高い治療効果が期待できますが,腫瘍の残存や再発があれば手術が必要となります.

 鼻副鼻腔癌は時に頭蓋底に浸潤していることもあります.また,扁平上皮癌以外の癌ができることもまれではありません.これらはサガハイマットの重粒子線治療のよい適応となります.重粒子線治療は高度先進医療であり,保険診療にはなりませんが,ご希望の患者さんにはサガハイマットを紹介しています.

頭頸部扁平上皮癌の手術

1.喉頭癌

 1)レーザー切除術(図13)

口から直達鏡を喉頭まで入れ,顕微鏡で拡大し,病変をレーザー光で切除します.

主にリンパ節転移が無い早期の喉頭癌を対象としています.

片側声帯のみの切除では良好な声が残りますし,両側声帯の切除を行っても声は残ります(やや嗄れた声になります).

術後の嚥下機能は特に問題ありません.

図13

(図13)

 2)喉頭部分切除・亜全摘術

頸部外切開で,声を残して喉頭を部分的に切除する手術です.嗄れた声になりますが,気道を用いた発声が可能であり,鼻呼吸も可能です.

嚥下機能に影響が出て誤嚥を起こしやすくなるので,術後の嚥下訓練が必要となり,.高齢者では注意が必要な手術です.

切除範囲により以下の3つの術式があります.

  ①垂直部分切除術

   喉頭の右または左のほぼ半分を切除する手術です.

   主に放射線治療後の再発声門癌で,片側にとどまっている場合を対象としています.

  ②喉頭水平部分切除術

   声帯よりも上の喉頭を部分切除する手術です.

   主に放射線治療後の再発声門上癌で,声帯に腫瘍が進展していない場合が対象です.

   術後の誤嚥が特に生じやすい手術で,充分な嚥下訓練が必要です.

  ③喉頭亜全摘術

   輪状軟骨よりも上の喉頭を亜全摘する手術です.

   主に放射線治療後に再発した進行喉頭癌で声を残したい場合に行います.

 3)喉頭摘出術(喉頭全摘術)

  声帯を含めて喉頭を全摘出する手術です.声は残りません.

  下頸部に永久気管孔ができ,呼吸はすべてこの気管孔を通じて行うことになります.

  気道と食道が分かれるので,誤嚥はみられず,確実な嚥下が可能です.

  代用音声を獲得する方法があり,私たちは気管・食道シャント形成術(図14)も行っています.

  主に放射線治療後に再発した進行喉頭癌で,術後に確実に嚥下したい場合に行います.

図14

(図14)


2.下咽頭癌

 1)咽頭・喉頭・頸部食道摘出術

  多くの下咽頭癌は進行癌であり,下咽頭から喉頭や頸部食道に進展していることから,下咽頭癌の最も基本的な手術は咽頭・喉頭・頸部食道を摘出する手術です.摘出後は口から食べることを可能とするために消化管を再建する必要があり,小腸(空腸)の一部を移植します.喉頭の再建はできませんので,喉頭摘出と同様に下頸部に永久気管孔が作られ声を失いますが,代用音声の獲得が可能です.

  主に放射線治療後に再発した進行下咽頭癌を対象としていますが,初発例でも高齢者のように放射線治療の負担が大きい場合に行います.

 2)下咽頭部分切除術

  限局した下咽頭癌に対する手術で,喉頭を保存し声を残すことが目的の一つです.

  口から直達鏡や内視鏡を入れて腫瘍部分を切除する方法(経口的切除)と,頸部外切開で下咽頭を部分切除する方法があります.外切開部分切除では術後の嚥下訓練が必要です.


3.中咽頭癌

 口蓋垂を含む軟口蓋は発声や嚥下時に鼻咽腔を閉鎖する重要な機能があり,中咽頭癌の手術では鼻咽腔閉鎖機能を保存することが重要となります.

 早期癌では扁桃摘出など切除範囲が小さく,多くの場合,機能障害はみられません.

 進行癌で軟口蓋の切除範囲が大きくなると鼻咽腔閉鎖機能が障害されます.その場合は,Gehanno法など鼻咽腔を狭くする形成手術を行います.


4.口腔癌(舌癌)

 1)舌部分切除術(口内法)

  早期癌が主な対象です.

  口腔内から半導体レーザーを用いて腫瘍に1.5cm程度の安全域を付けて舌を部分的に切除します.

  切除部は縫合せず,人工真皮などの創傷被覆剤で被覆します.これにより術後の舌の可動性が保たれます.

  術後数カ月で構音や嚥下にほとんど支障が無い状態となります.

 2)舌半切・亜全摘術(pull through 法)

  舌癌は進行すると口の底(口腔底)にある筋肉(口腔底筋群)に浸潤しますし,頸部リンパ節転移が高頻度にみられます.

  口腔底筋群と頸部リンパ節は近接しており,進行癌ではこれらを一塊として切除するために,舌を頸部に引き抜いて(pull through)切除する,pull through法切除を行っています.

  舌の切除範囲は多くの場合,半分以上となります(半切,亜全摘).

  切除後は口腔から頸部につながる欠損ができますので,形成外科とのチーム医療で筋皮弁等を用いて切除部分を再建します.

  再建によって良好な嚥下機能や構音機能の獲得を目指しています.


5.鼻副鼻腔癌

 鼻副鼻腔癌で最も多い上顎洞癌に対し私たちが行っている手術を紹介します.

 上顎洞は周囲を骨壁に囲まれています.その下方が口蓋,上方が眼窩,内側が鼻腔,前方が頬部になります.これらの骨壁の切除範囲により次の3つの術式に分けられます.

 1)上顎部分切除術

  上顎洞を囲む骨壁のうち,いずれかを保存して切除する術式ですが,通常は眼窩下壁を保存し,鼻腔側壁を切除します.

  口蓋を保存できれば機能障害はほとんどみられません.

 2)上顎全摘術

  上顎洞の骨壁をすべて切除する術式です.口蓋は切除され,眼窩下壁の骨壁も切除されます.口蓋欠損に対しては歯科口腔外科により顎義歯の補綴を行ってもらいますし,必要あれば欠損部を再建します.

 3)拡大上顎全摘術

  上顎洞癌が上方に進展し眼窩内,眼球内に浸潤している場合に行う手術です.上顎全摘に加えて眼球,眼窩内容を切除します.必要に応じて欠損部を再建します.


頸部リンパ節転移とリンパ節郭清術

 頸部には多数のリンパ節があり,頭頸部癌がリンパ行性に転移する所属リンパ節が頸部リンパ節です.癌の発生部位や性質により転移を生じやすいものと,そうでないものがあります.

 咽頭癌や喉頭癌では,のどの症状が現れないうちに頸部リンパ節転移が生じることがあります.頸部リンパ節転移の特徴を簡単に言うと,痛みや発熱を伴わず,硬く,徐々に大きくなるリンパ節腫大ということです.逆に言えば,感染症や炎症に伴う頸部リンパ節腫大の多くは,痛みや発熱を伴います.また頭頸部癌が転移しやすいリンパ節は,首の上のやや外側の部分で顎の骨の下あたりです.このあたりに,無痛性で硬い腫瘤がある場合は頭頸部癌のリンパ節転移の可能性がありますので,早めに専門医を受診してください.

 頸部リンパ節転移に対する治療には,原発病変に対する治療と同様に,手術,放射線,薬物(抗癌剤,分子標的薬)治療があります.ここでは頸部リンパ節転移に対する基本的な手術である頸部リンパ節郭清術を紹介します.

 臨床的に確認可能な転移性リンパ節腫大がみられる場合は,そのリンパ節のみならず腫大をきたしていない周辺のリンパ節にも転移を生じている可能性があります.そこで頸部リンパ節転移に対しては腫大リンパ節のみではなく,その周辺領域のリンパ節をすべて摘出する必要があり,これを頸部リンパ節郭清といいます.

 頭頸部癌により転移を生じやすい領域が分かっており,その領域のリンパ節を郭清しますが,基本的には顎の下から鎖骨の上までのリンパ節を郭清します.

 その際に転移リンパ節が癒着している頸部の筋肉(胸鎖乳突筋)や内頸静脈,肩の挙上や首の回旋に働く副神経を同時に切除することがありますが,癒着が無ければこうした臓器を可能な限り保存するようにしています.


頭頸部扁平上皮癌の放射線治療

 初回治療の主な対象は咽頭癌,喉頭癌,鼻副鼻腔癌であり,進行癌で臓器・機能を保存したい場合,上咽頭癌のすべて,早期癌で放射線治療を選択した場合に行っています

 放射線治療には限度があり,治癒を目的として行う根治照射の通常量は70Gyです.

 1日1回2Gyを照射することが一般的であり,70Gy であれば35回です.これを月曜から金曜の週5回行いますので7週間,約2ヵ月の治療期間が必要です.

 通常は放射線治療の効果を高めるため,抗癌剤や分子標的薬を同時併用する化学放射線療法を行っています.私たちが用いている併用薬剤は以下の4つです.早期癌では1または2の方法を,進行癌では3または4の方法を行っています.進行度や年齢,全身状態により,併用薬を用いず放射線単独で治療することもあります.

 化学放射線療法を行う場合には,担当医の説明をよく聞いていただいた上で,併用薬を選択してください.

1.TS-1(ティーエスワン)

 フルオロウラシル系の内服抗癌剤です.病院内で点滴する必要がありません.

 シスプラチン分割投与に比べると照射部位の粘膜炎が強く出る傾向があります.

 主な副作用は下痢,吐き気,血液毒性,肝障害などです.

2.シスプラチン分割投与

 白金系の抗癌剤で週1回,点滴静注します.

 主な副作用は吐き気,腎障害,血液毒性などです.

3.TS-1+シスプラチン

 1と2の両者を併用する方法です.

 治療効果が高まりますが,その分,副作用も強くなります.

4.セツキシマブ(分子標的薬)(リンク)

 扁平上皮癌の特徴をねらった分子標的薬という新しい薬剤で,点滴静注します.

 抗癌剤にみられる副作用が少ないのが特徴ですが,皮膚炎,粘膜炎などの副作用は強めに出ます.また過敏症反応がみられることもあります.


分子標的薬について

 癌細胞は私たちの体にある正常細胞に比べ,細胞分裂が盛んで速く増殖するという特徴があります.抗癌剤の多くは癌細胞の特徴である盛んな細胞分裂を阻害する作用を持っています.そのために抗癌剤では正常細胞の中でも分裂が速い血液細胞や消化管の上皮細胞,毛根の細胞などに障害が生じ,白血球減少や嘔吐・下痢などの消化器症状,脱毛などの副作用がみられます.もちろん抗癌剤に特徴的な副作用もあり,シスプラチンにみられる腎機能障害がその代表例です.

 いっぽう分子標的薬は,正常細胞には無いか少ない物質(分子標的,主にタンパク質)で,癌細胞が速く増殖するために働いているものをねらって,その機能を阻害することにより癌細胞の増殖を抑制する薬剤です.

 頭頸部癌では上皮増殖因子受容体(EGFR)という細胞膜上の受容体たんぱく質の量が多い(強く発現している)ことが分かっています.EGFRに上皮増殖因子などが結合すると細胞が分裂増殖するシグナルが癌細胞に送られます.分子標的薬セツキシマブはこのEGFRの機能を阻害する薬剤であり,EGFRの抗体です.頭頸部癌に対する放射線治療や抗癌剤化学療法にセツキシマブを併用すると,治療効果が高められることが分かっています.

 ただし,皮膚や粘膜の細胞もEGFRを比較的強く発現していることから,皮膚炎や粘膜炎などの副作用がみられます.

 近年,様々な悪性腫瘍に対し多くの分子標的薬が用いられるようになり,新たな分子標的薬も続々と開発されてきています.私たちはセツキシマブをはじめとする分子標的薬による頭頸部癌の治療にも,積極的に取り組んでいます.


甲状腺腫瘍の治療

 甲状腺には良性から悪性までさまざまな腫瘍・結節が生じます.代表的な良性腫瘍・結節は腺腫様甲状腺腫と濾胞腺腫です.悪性腫瘍としては乳頭癌,濾胞癌という分化癌と,髄様癌,未分化癌が代表的です.

1.良性腫瘍・結節

 1)腺腫様甲状腺腫(図15)

  甲状腺にできる境界明瞭な腫瘤でしばしば多発します.

  腫瘤を形成する細胞は正常甲状腺細胞と同じですが,部分的に細胞が増えたり(過形成)コロイドというゼリー状の液体を多量に作ることで腫瘤となりますが,真の腫瘍ではありません.

  良性ですが,腫瘤が大きくなり気管や食道など周囲の臓器を圧迫するほどになれば手術を行いますし,患者さんが切除を希望される場合は手術を行います.

図15

(図15)

 2)濾胞腺腫

  甲状腺にできる良性の充実性腫瘍で単発します.

  後述する濾胞癌との違いは,腫瘍が被膜に包まれていて,周囲に腫瘍細胞が浸潤していないことであり,エコーやCTなどの検査でこれを確認することは困難です.切除した腫瘍組織を顕微鏡で調べて分かります.

  腫瘤が大きい場合は腺腫様甲状腺腫と同様に手術を行いますが,大きくない場合でも充実性の腫瘍で患者さんが希望されれば手術を行います.

2.悪性腫瘍

 1)分化癌

  ①乳頭癌(図16)

  甲状腺悪性腫瘍で最も多い癌です.分化癌の分化とは正常に近いことを示しています.つまり,おとなしい癌で予後は良好です.

  諸検査で乳頭癌が疑われる場合はほとんどの患者さんが手術を希望され,手術を行っています.

  頸部リンパ節転移を伴う場合もあり,甲状腺の切除に加えて頸部リンパ節郭清を行うことがあります.

図16

(図16)


  ②濾胞癌

  乳頭癌に比べれば頻度が少なく予後がわずかに不良ですが,基本的には分化癌であり予後良好です.

  濾胞腺腫と異なる点は腫瘍細胞が被膜を越えて浸潤していることですが,切除しなければ分かりません.つまり濾胞腺腫,濾胞癌が疑われる場合は原則的には手術をお勧めしています.

 2)髄様癌

  甲状腺の濾胞上皮細胞ではなく,神経に近い細胞から発生する癌です.

  多発内分泌腫瘍症という多発する腫瘍の一部としてみられることがあります.

  手術切除が基本的治療です.

 3)未分化癌

  甲状腺に生じる悪性度が高い癌です.

  周囲に浸潤する傾向が強くみられ,切除可能であれば手術をお勧めしていますが,放射線治療や抗癌剤など集学的な治療が必要となります.


甲状腺の切除手術

 切除範囲により甲状腺半切術,亜全摘術,全摘術に分けられます.

 甲状腺につながる主な血管は左右の上甲状腺動静脈,下甲状腺動静脈と中甲状腺静脈であり,切除術ではこれらを結紮切断します.また甲状腺はベリー靭帯という強固な靭帯で気管に結合していますので,これを切離します.あとは甲状腺組織を周囲から剥離すれば甲状腺を切除できますが,その際に声帯の運動を支配している反回神経(迷走神経の枝)を損傷することなく剥離すること,これが甲状腺手術のポイントです.

 良性腫瘍で術前に反回神経麻痺(声帯麻痺)が無い場合は,私たちの施設で反回神経麻痺を生じる率は1%未満です.

 反回神経麻痺を伴う悪性腫瘍は,腫瘍が反回神経に浸潤していることを示しており,反回神経を合併切除する必要があります.

 悪性腫瘍で術前に麻痺がない場合でも術中に腫瘍が反回神経に一部癒着していることがあり,手術により反回神経麻痺となることがあります.私たちの施設では5%程度です.


唾液腺(耳下腺・顎下腺)腫瘍

 頭頸部には唾液を作り分泌する唾液腺組織があります.耳の下にあるのが耳下腺,顎の下にあるのが顎下腺,舌の下方で口の底にあるのが舌下腺で,これらを大唾液腺と言います.その他に口腔や咽頭などの粘膜には微小な唾液腺組織があり,これを小唾液腺と言います.唾液腺にはたくさんの種類の腫瘍が発生しますが,発生部位を多い順にあげると耳下腺>顎下腺>小唾液腺となります.耳下腺にできる代表的な良性腫瘍が多形腺腫とワルチン腫瘍です.顎下腺にも良性腫瘍ができますが,耳下腺に比べて悪性腫瘍の率が高く半数程度が悪性です.

1.耳下腺多形腺腫

 唾液腺腫瘍で最多の良性腫瘍です.長期に放置すると癌化することがあります.

 良性ですが,時に腫瘍細胞が被膜を越えて耳下腺組織に浸潤していることがあるため,被膜に沿って腫瘍を剥離摘出する核出術は不適切な手術とされています.再発なく切除するためには,腫瘍に正常耳下腺組織を付けて切除する必要があります.

 耳下腺内には顔面の表情筋を動かす顔面神経が枝分かれして走行しており,これより浅い部分を浅葉,深い部分を深葉といいます.耳下腺の手術では,顔面神経を確認し損傷しないように耳下腺組織を剥離して切除を進めます.

 耳下腺腫瘍の多くは浅葉に発生しており,この場合は顔面神経を確認しながら浅葉を切除すると腫瘍を摘出できます.これを耳下腺浅葉切除術と言い,耳下腺腫瘍に対する最も多い標準的な手術です.

2.ワルチン腫瘍

 耳下腺に発生する良性の腫瘍で,多発したり両側に発生することがあります.

 喫煙との関連があります.

 核出術でも被膜を損傷しなければ再発はありませんが,顔面神経に接していることが多く,基本的には顔面神経を確認して切除する術式が標準的です.

3.顎下腺腫瘍

 約半数が悪性ということを念頭においておく必要がありますが,最も多いのは多形腺腫です.

 腫瘍と顎下腺を一塊にして切除する術式が標準的です.

 下口唇を動かす顔面神経下顎縁枝が顎下腺の上を走行していることが多く,これを損傷しないで手術することがポイントになります.

図17

(図17)

4.唾液腺癌(図17)

 頻度は少ないのですが,唾液腺には組織学的にさまざまな悪性腫瘍が発生します.悪性度も低悪性から高悪性までさまざまであり,悪性度に応じた手術を行うことが推奨されています.ただし,術前に確定的な診断がつくことはまれです.私たちは,手術中に組織検査を行う術中迅速組織検査を行い,組織診断や悪性度に応じた手術を行っています.


口腔・咽頭領域

1. ノドのモヤモヤ、イガイガ、痰が絡んだ感じや何か詰まった感じ

最近、多くの方がノドの異常感や不快感や咽頭がん等の悪性腫瘍を心配されて受診される方が非常に増えています。しかし、はっきりした病気が見つからない方がほとんどで、それらの方を咽喉頭異常感症と呼んでいます。咽喉頭異常感症の原因には大きく3つがあります。

1)逆流性食道炎

 食事の欧米化や肥満などが原因と言われていますが、中年以降の痩身の女性にも多い病気です。慢性の咳、声がれ、難治性の中耳炎などの原因になるとも言われており、患者さんの数が最近急激に増加しています。胃酸を抑えるお薬を内服していただくと、症状が和らぎます。

2)アレルギー

 花粉症や喘息と同じアレルギーによってのどの不快感が生じることがあります。アレルギーの原因を検索し、アレルギーを抑えるお薬を内服していただきます。

3)精神的なもの

 悪性の癌を心配して、のどの不快感が生じることがあります。内視鏡検査や画像検査にて病気の有無を慎重に調べることで症状が軽快すると思います。

2.食事が美味しく感じなくなったり、変な味に感じたりする

 人間にとって食べることは最も大切であり、人生において大きな楽しみの一つです。食事が美味しくなければ、その楽しみも大きく損なわれます。味覚障害はさまざまな原因で生じることが多く、治療が難しい病気の一つです。最も多い原因として慢性炎症により味蕾(舌に存在する味を感じる器官です。)の再生が障害されることと言われています。われわれは味蕾の再生を促進する亜鉛製剤や漢方薬・生薬を用いた治療法を行っており、有効な症例を多く経験しています。

3.睡眠時に呼吸が止まる。昼間に眠くて仕方がない。

 眠っている間に呼吸が止まる病気を睡眠時無呼吸症候群といいます。睡眠中の無呼吸であるため、自分で自覚することが難しい病気ですが、そのまま放置すると脳卒中や心臓病などの多くの病気の原因になると言われています。また熟睡できないため、昼間疲れやすく、居眠り運転事故の原因になることがあります。肥満、飲酒などによりノドの空気の通り道が狭くなることが原因とされ、CPAP療法といわれる呼吸を助ける機械や、口の中にマウスピースを装着する治療法があります。当科では、外科的手術による治療を行っています。大きないびき、睡眠中に何回も起きる、起きた時に異常にノドが渇くなどの症状がある方は、要注意です。


喉頭領域

声帯ポリープ、ポリープ様声帯、声帯結節

音声を酷使する職業(教師、政治家、歌手など)に多く見られます。
声の濫用(カラオケなど)も関係します。
嗄声(声枯れ)が治らない場合はこれらの病気の可能性があります。
音声治療と外科的手術(直達鏡下喉頭微細手術)を組み合わせて治療します。
手術は多くの場合全身麻酔で行いますが、入院期間は3日程度です。


声帯麻痺

手術後などに見られるもので、片方の声帯、あるいは両方の声帯が動かなくなるものです。
症状として声がれ、水分のむせ、呼吸困難などの症状が多く出ます。
手術(甲状軟骨形成術Ⅰ型、後部声門開大術など)を行っています。


痙攣性発声障害

痙攣性発声障害は、声が途切れ途切れになる病気で、ファイバー検査で異常が分かりにくく原因不明と診断されることも珍しくありません。当科ではこれを正しく診断し、言語聴覚士による音声治療などで適切に治療を行っています。


平成25年度手術症例数

領域術式件数
 喉頭喉頭微細手術     8
甲状軟骨形成術    2
喉頭蓋嚢胞摘出術    2
喉頭(悪性)腫瘍レーザー切除術  21
喉頭全摘術    5
喉頭気管分離術    2

小計

  40


耳科領域

1) 外来診療について

新生児聴覚スクリーニング後の精密聴力検査

 当科は佐賀県で唯一の機関となっています。
 精密聴力検査にて両側の難聴を認めた場合は早期に補聴器を装用し、言語聴覚士や県内の療育施設と連携して言語発達についてのリハビリを行います。
 聴覚の長期的な経過観察や補聴器についても言語聴覚士と連携しつつ定期的診察も行っています。

補聴器

 難聴児だけではなく加齢性難聴やその他の原因で難聴となった方に対する補聴器の適合性について診療しています。
 日本耳鼻咽喉科学会委嘱の補聴器相談医2名、厚生労働省主催の補聴器適合判定医師研修会修了医1名が在籍しています。

当科外来にて施行可能な小手術

 成人や一部の小児の滲出性中耳炎に対する鼓膜チューブ留置術。

めまい,耳鳴り、耳管障害、顔面神経障害については,通常の外来診療の範囲にて対応します。これらの疾患については当科に受診された際の検査所見や病状に応じて、宜近隣の耳鼻咽喉科医院・病院などへ紹介させていただいています。


2) 入院診療について

入院診療では主に以下のような耳科手術を行っています。

滲出性中耳炎

 外来で施行困難な幼小児に対する全身麻酔下の鼓膜チューブ留置術(1泊2日)。

慢性(穿孔性)中耳炎

 鼓膜に穴が開いた状態に対する接着法による鼓膜形成術[湯浅法](2泊3日~3泊4日程度)。
 慢性中耳炎や中耳真珠腫に対する鼓室形成術(乳突洞削開術を含む)。
 顔面神経麻痺(特に外傷性のもの)に対する顔面神経減荷術。

平成22年1月~26年12月実績

鼓膜チューブ留置術(外来施行例を除く)66耳、接着法による鼓膜形成術(湯浅法)11耳、鼓室形成術(乳突削開術併施を含む)29耳、外傷性耳小骨離断再建(顔面神経減荷術併施を含む)4耳、その他6耳。

右慢性穿孔性中耳炎の術前

※ 右慢性穿孔性中耳炎の術前

右鼓膜形成[湯浅法]術後

※ 右鼓膜形成[湯浅法]術後

左滲出性中耳炎の術前

※ 左滲出性中耳炎の術前

左鼓膜チューブ挿入術後

※ 左鼓膜チューブ挿入術後


鼻科領域

当科は主に以下のような鼻疾患に対し手術を行っています。

  • 悪性腫瘍(上顎癌など)については別項を御参照下さい。

(i)アレルギー性鼻炎・肥厚性鼻炎

●治療

内服薬・点鼻薬などの保存的治療が有効な疾患ですが、効果が不十分な場合は手術の適応です。

●手術

①粘膜下下鼻甲介骨切除術

  • 鼻詰まりに効果が高い手術です。
  • 鼻腔内で最も大きな容積を占めるのは下鼻甲介です。その内部にある下鼻甲介骨を切除することで、下鼻甲介の容積を減らすことができます。
  • 粘膜に与える傷が少ないので、術後の傷のなおりが早いのが特徴です。

粘膜下下鼻甲介骨切除術

②後鼻神経切断術

  • 鼻汁やくしゃみに効果が高い手術です。内視鏡下に、鼻の自律神経の一つである後鼻神経を露出させ、切断します。

後鼻神経切断術

①②の手術はアレルギーの体質そのものを改善する治療ではありませんが、多くの患者さんで、薬やレーザー焼灼ではとりきれない鼻のつらい症状を長期間軽くすることが可能になっています。

(ii)慢性副鼻腔炎(蓄膿症。真菌(カビ)によるものを含む)・ポリープ(鼻茸)

●治療

お薬などの保存的治療で十分な改善がない場合や、症状を反復する場合は手術の適応です。もともと鼻腔と副鼻腔は細い孔で交通しています。手術の目的は、ポリープを除去し、狭くなった交通路を広げて鼻の粘液排出の機能を改善させることです。

●手術

内視鏡下鼻内手術

  • 手術は基本的に鼻孔から挿入した内視鏡下に行います。昔ながらの歯ぐきの上を切る方法は用いません。
  • 当院にはマイクロデブリッダー(ポリープを吸引除去する装置)やナビゲーションシステムがあり、より安全・確実に手術操作を行うことができます。

内視鏡下鼻内手術


(iii)鼻中隔弯曲症

●治療

鼻づまりや無呼吸などの症状があり、鼻中隔の曲がりが原因になっている場合は手術の適応です。

●手術

鼻中隔矯正術

  • 手術は鼻孔から挿入した内視鏡下に行います。
  • 弯曲した骨・軟骨を切除したり、切れ目を入れることで曲がりを改善します。
  • アレルギー性鼻炎や肥厚性鼻炎の手術と同時に行うことが多いです。
  • 副鼻腔手術を行う際に、鼻中隔彎曲によって鼻の中が狭く手術がしづらい場合には同時に行うこともあります。

(iv)副鼻腔のう胞(術後性上顎のう胞など)

●症状

のう胞は良性の病変ですが、ゆっくりと大きくなって周囲を圧迫したり感染したりすると、顔面の腫れや変形、眼の症状(ものが2重に見える、視力低下など)などを引き起こすことがあります。

●治療

症状がある場合や、症状がなくても将来重篤な合併症を引き起こすと予想される場合は手術の適応です。

●手術

内視鏡的鼻内手術

  • 手術は基本的に鼻孔から挿入した内視鏡下に行います。
  • のう胞の壁を鼻内に大きく開放し、のう胞液がのう胞内にたまらないようにします。
  • のう胞は多発することがありますが、当院にはナビゲーションシステムがあり、より安全・確実に手術操作を行うことができます。

(v)良性腫瘍(乳頭腫など)

●手術は基本的に鼻孔から挿入した内視鏡下に行います。腫瘍を摘出するのが難しい場合は外切開(歯ぐきの上などを切る方法)を併用します。



<術前の検査>

鼻内の診察(内視鏡検査含む)、アレルギー検査、レントゲン・CT・MRIなど

<入院期間>

  • 入院期間は病状によって異なります。通常は4~7日間です。
  • 手術の前日に入院です。

<退院後>

  • 手術で治療が終わりではありません。術後のフォローアップがとても大切です。
  • 特に、きずが落ち着くまでの1~3ヶ月は、鼻の自己洗浄、通院(処置)、内服の3つが重要です。
  • 大学病院での術後の治療/経過観察期間は、病状によって異なります。短い方で2ヶ月程度、長い方は1年以上必要になります。日頃の通院(処置)は、患者様が通院しやすい耳鼻咽喉科医院へ御紹介致します。

<手術を御希望される方へ>

  • 当院では、原則として初診時には紹介状をお願いしております。
  • 鼻の手術について御相談されたい方は、紹介状は必要ありませんが、紹介状のない方については、選定療養として別途7,700円の御本人負担が必要になります。
  • 電話予約は必要です(耳鼻咽喉科医局:0952-34-2379 受付時間:9-17時(平日のみ))。「お名前」「生年月日」「紹介状の有無」「鼻の手術について相談したい」ことを担当者にお伝え下さい。
  • 紹介状が無い場合も、できるだけ今までの治療内容(お薬ノート、アレルギー検査結果など)がわかるようにして来院されて下さい。効率よく診断を進めることができ、重複した検査や治療を行わずに済むことがあります。


嚥下領域

 嚥下機能は加齢とともに低下してきますが、かつては嚥下障害に伴う誤嚥性肺炎により多くの高齢者が命を落としておられました。
 また、中年以降に多い口・のど・食道のがんの治療後や脳卒中などでもしばしば嚥下障害を来たします。
 近年では嚥下障害に対しての関心が社会的に高まっておりますが、当科では開院以来医師・言語聴覚士が連携しつつリハビリや手術による嚥下障害の治療を行い、「再び口から食べられる」ことを目指しています。

 特に手術では、誤嚥性肺炎を繰り返す重篤な嚥下障害症例に対して誤嚥防止手術を行っています。
 誤嚥防止手術の術式は平成19年以後喉頭気管分離術を主として行っており、症例によっては喉頭全摘出術も行っています。
 誤嚥防止手術の術後は患者さんの肺炎の回数や喀痰量の減少が得られています。
 今後は県内の慢性期病床を有する施設との連携を深め、誤嚥防止手術をひろめて可能な限り口から食べることを目指していきます。
 また、誤嚥防止手術では音声を犠牲にする必要がありますが、嚥下障害のタイプや程度によっては輪状咽頭筋切除術や喉頭吊挙げ術といった音声を残すことができる嚥下改善手術にも今後積極的に取り組んでいきます。

当科の背景

 初代教授・進武幹先生 宿題報告『嚥下の神経機序とその異常』を発表(平成6年日本耳鼻咽喉科学会総会)
 嚥下障害講習会修了者3名(日本耳鼻咽喉科学会主催)
 ※ 当講習会は「胃瘻造設時嚥下機能評価加算のための研修」に相当しています。
 音声言語機能等判定医師研修会修了医2名(厚生労働省主催の音声言語・嚥下障害に関する研修会)
 深浦順一先生(日本言語聴覚士協会会長) 当科在籍期間:昭和57年度~平成18年度

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